前回からの続きです
2025年からの断熱基準義務化に伴い、国は全国で、断熱仕様施工講習会 というものを開催していて、僕は訳あってその講師をしています。
先日も、その施工講習会の講師をしました。
場所は、山梨県産業技術センターです。
そこは、山梨県の様々な製造業の技術促進に関わる事業をする機関です。
断熱施工講習会は、敷地内の作業場で行ったのですが、そこに黒漆喰のサンプルがありました。
黒漆喰というのは、文字通り黒い漆喰です。
しかし侮ることなかれ。だだ黒いだけではありません。
写真右側の工程が済んだら、最後に手のひらで磨くのです。
だから本物の黒漆喰(左側の完成形)は光っています。
巷では、光っていない黒漆喰を見る事がありますが、偽物というより未完成という事になります。
黒漆喰。仕上げというより、もはや芸術です。
昔の左官職人が、腕を競い合いながら様々な白漆喰彫物?をするようになり、多分白だけデザインの限界まで達したのでしょう。
黒(影)が入れば、その幅が倍増します。
そうやって、ある時黒くする左官職人が現れ、さらに見栄えをよくするように磨いて光らせる方法を考えたのでしょう。
黒だけの黒漆喰もありますが、僕は、白漆喰との塗り分けする事でその価値が発揮されると思っています。
以前見た、角館の黒漆喰のお蔵のファサードは素晴らしかった。
ググって見てもらいたいのですが、ホントにすごいものです。
お金も掛かっていると思います。
当時のクライアントが、左官職人に「カネはいくら掛かってもいいので、最高の左官を仕上げてくれ!」という感じで発注したのでしょう。
それに答えて、最高の仕事(作品)を残した左官職人も凄いし、発注したオーナーも凄い。
以前何かで読んだのですが、世界中の歴史に残る建物の坪単価を調べてみると、大体1000万円/坪を超えるそうです。
多分、角館のお蔵の単価もそれくらいなのでしょう。
昔は、お金持ちがお金を使う選択肢が、今より少なかった。
だから、その選択肢の一つである建築に掛ける割合も高かったのだと思います。
でも今は、クルマ、時計、宝石、アートなどなど、庶民でもお金を使える選択肢がたくさんあります。
そして、王様、殿様、貴族などなど、無尽蔵にお金を使える立場の人が、ほとんど居なくなってしまった、というのも原因だと思います。
それが良いのか悪いのか分かりませんが、とにかく現在では、角館の黒漆喰のような仕事は生まれないという事です。
建築の価値は何で決まるのか?
断熱性能ももちろん必要ですが、その要素の一つとして、黒漆喰のような手仕事を幾らかでも取り入れたいと思います。
お金をかけなくても手間をかける。
今は、手間=お金 です。
黒漆喰はできなくても、でも、できる事はあると思います。